| 春山 |
| 夏山 |
| 秋山 |
| 冬山 |
平地はポカポカ陽気になりますが、山では未だ真冬と早春を行き来しています。
街の陽気に騙されてついつい気軽な気持ちで出掛けてしまうのですが、思わぬ難儀や遭難に遭わぬよう、
この季節の山の気象の特徴に注意しましょう 。
(1)大陸高気圧の一部が移動性高気圧となって日本を覆うようになるが、移動性高気圧の後には低気圧を
伴った気圧の谷が付随し、特に低気圧が日本海を通過する場合には、発達して全国的に春の大嵐をもた
らす。南から暖気が流入するために、気温が上昇し降雪が降雨に変わって全層雪崩や融雪による増水を
引き起こす。また、この低気圧が勢力を保ったまま日本の東海上に停滞する時は一時的に冬型配置に戻
り、北日本では暴風雨から暴風雪に逆戻りして山は大荒れになり悪天が続く。低気圧と気圧の谷の動き
を観察することにより、大まかな天気予測ができる。
(2)移動性高気圧が三陸沖に停滞した場合には、関東から西の太平洋側では「春の大雪」に見舞われること
がある。奥秩父、奥多摩、丹沢、八ケ岳などでも新雪による表層雪崩が発生することがあるので、注意が
必要。
(3)春山では、全層雪崩や雪庇の崩壊、ブロックの崩壊などが多い。全層雪崩や雪庇崩壊は発生する場所が
経験的に知られているので、雪崩発生地点図などで調べてそのような場所には立ち入らないこと。また、
目的のルートの山行記録などをインターネットなどで検索してみると、ある時期だけそのルートの記録が見
当たらないか少ないような場合は、その時期のそのルートは雪崩の実績があるために登山者が敬遠して
いると考えてよい。
また、春山も時期が進むと林道のガケや笹ヤブに引っかかっていた残雪ブロックが落下して事故になった
例も沢山あるので、林道だからといって安心はできない。
(4)この時期の山は雪が降ったり、霙が降ったり、雨が降ったりを繰り返している。ウェアやテントは雪対策と併
せて雨対策も欠かせない。この季節に身体が濡れると低体温症になって危険な状況となる。
(1)避雷の方法
2006年4月末、奥多摩・本仁田山で2人パーティーが落雷を受け、1名が死亡するという痛ましい事故があり
ました。現場は樹林帯の中だったそうです。湿った下降気流と地表からの上昇気流が作る湿舌が樹林帯を覆い、
その中で雷が発生したと考えられます。雷雲の中に入ると、雷は上からも横からも襲ってきます。亡くなられた方
は高名な登山家でしたので避雷の知識は充分にあったと思いますが、肩から背中に電撃痕が走っていたそうで
すから、横方向からの電撃に襲われたのかも知れません。樹林帯で雷に遭遇した場合には樹林帯から出るのが
一番ですが、出られない状況であれば樹木が疎らな場所を探して、樹木(大木)の天辺からの迎角45度の範囲内
で幹や枝葉や根から2m以上離れ、水が溜まっていない窪地に身を臥せて待てと言われていますが、密な樹林
での横方向からの電撃(側撃)は避けようがありません。
雷警報に注意するとともに、ラジオにガリガリという雑音が入りだしたら危険信号です。最近は雷の接近を知ら
せるポータブル雷警報器も発売されています。雷の接近を早く察知して安全な場所(山小屋など)に避難することが
大事です。山小屋が無ければ谷筋、窪地、斜面の中腹などに逃げ込めば、多少は安全かも知れません。稜線で
は、送電鉄塔や送電線があればこの下は安全です。ただし、迎角45度の範囲内でかつ鉄塔から2m以上離れた
場所でないと、落雷からの保護区域にはなりません。山小屋の中でも柱や壁や天井から離れた位置に。
東屋(四阿)なども天井、柱から2m以上離れられる広さなら安全ですが、狭い場合は非常に危険です。
かって、神奈川県・大山の見晴台の東屋に落雷、東屋に避難していたハイカーが1名死亡、数名が重軽傷を負っ
た事故は記憶に新しいところです。 天幕の中はポールに落雷するため非常に危険です。
避難する時には姿勢を低くして逃げて下さい。パーティーが団子にならずに各人が距離をおいて避難することも
大切です(複数人の被雷を避けるため)。ザックから飛び出しているストックやピッケル、ポールは危険です。傘は
勿論厳禁。地面にしゃがんで避難する場合にはザックに座せば比較的安全。
(2)雷発生のメカニズムと種類
真夏の午後に多い普通の雷(熱雷)は、上空の寒気と地上からの高温の上昇流が大規模な積乱雲を発生させ
ることによって起こります。雷発生は上空での強い流入寒気が必須条件ですから、天気予報の寒気の流入状況
と、日本付近の太平洋高気圧の配置型に注意していれば、雷に遭わなくてすみます(例えば「鯨の尾型」太平洋
高気圧は晴天が安定して続くが、北日本中心に雷発生が多い気圧配置です)。真夏の空が異常に青く見える時
や、ハケで掃いたような巻雲やスジ雲が現れる時は上空に寒気団が入っている証拠で、翌日から雷が発生しま
す。
熱雷は「雷3日」という諺のとおり、一旦起こると2〜3日間連続して発生しますが、一旦終了すると次の雷発生
までは4〜5日間ぐらいはかかるのが普通です。従って、入山日が雷発生日のどの時点かをキャッチしていれば
後の予測が可能です。山小屋などで直近の雷がいつから発生したかを聞いておくとよいでしょう。熱雷は大気の
対流が激しい午後に発生することが多いので、早めに午後の行動を終えるような行程作りが大切です。
以上の熱雷以外にも、発達した低気圧や活発な寒冷前線上に発生する界雷があります。日本海を南北に伸び
た寒冷前線が東進や南下する時、発達した低気圧が西から接近する時、台風が南から接近中の場合などに発
生するので、天気図から予想できます。界雷は昼夜の区別なく発生しますが、通例は数十分、長くても1〜2時間
で止みます。
熱雷が発生する気象条件に加えて界雷を伴った寒冷前線が接近すると、大規模な雷雨となります。これを熱界
雷と呼び、落雷、雹、アラレ、大雨、強風、低温などの大荒れとなります。熱界雷の発生頻度は多くはありませんが、
ひと夏に数回はあると言われています。これも天気図をチェックしていれば予測できますので、このような場合には
行動を控えることが肝心です。
雷に注意して、安全で楽しい夏山を!!
秋山で注意すべき気象は秋霖と秋台風です。
(1)秋霖
9月中旬〜10月中旬にかけて日本の南に不連続線が停滞し、関東以西は曇りや雨の日が多くなる。特に台
風と合併した場合には大雨となる。標高が高い山岳では雪、霙となり、身体が濡れると低体温症を引き起こす
原因となる。
(2)台風
近年の台風は時期を選ばず来襲の感があり、またコースも一定していないケースが見られるが、台風は大雑
把に言えば夏台風と秋台風に大別できる。一般的には、夏台風(7〜8月)のコースが南西諸島付近で北にル
ートを変えて日本海または本土を縦断するのに対して、9月〜10月の秋台風は偏西風の南下に伴い向きを北
東に変えて日本の南岸沿いや南海上を通過するケースが多い。このため台風の後面に向って大陸から寒気が
流入しやすい。台風一過の後もこの寒気のために一時的に冬型配置となり、標高が高い中部山岳や背稜山脈、
日本海側の山では思わぬ大風雪となる。
1989年10月8日、立山連峰真砂岳で中高年10人パーティーが台風通過直後の冬型気圧配置に伴う風雪
に巻き込まれ、内8人が凍死した事故はまだ耳に新しいところである。この時の天気図を見ると、前日には980
ヘクトパスカルの強い台風が小笠原諸島にあって北東進中であり、翌日には東北沖に抜けることが予想された。
事実、台風通過後に北京付近に1032ヘクトパスカルの強い高気圧が発生して強い冬型配置となり、天気は上記
のとおりになって暴風雪となったのであり、このような予測ができていれば遭難は避けられたと思われる。この
時のガイドとパーティーには気の毒であるが、この場合は天気図を見なくても台風情報だけからでも天気悪化は
簡単に予測できたケースであろう。いずれにしても、平地の台風一過の秋晴れとは異なり、秋台風通過直後の
日本海側山岳、中部山岳は大荒れになると考えるべきであろう。
高標高の冬山は一般的には「危険の巣」になっています。しかしこれを恐れていては登山はできません。暴風雪、
雪崩、ホワイトアウトなどの危険がイッパイのシーズンですが、これらのリスクとこれをもたらす気象に充分注意すれ
ば、また素晴らしい登山ができることも事実です。ここでは、過去に重大遭難を惹起した冬山の特徴的な気象につ
いて書いてみます。
(1)クリスマス寒波
発達した低気圧が日本付近を通過する時、天気が大きく崩れる現象で約1ケ月の周期で出現します。従って
年末に入山を予定している人は、11月下旬〜12月上旬に大荒れがあったかどうかをチェックしておくことが有
効です。クリスマスから年末に掛けて発生することが多いので、クリスマス寒波と呼ばれています。
(2)二つ玉低気圧
日本海と太平洋にそれぞれ低気圧が並走している場合には、全国的に大荒れとなる。降雪は湿雪となる。
二つ玉低気圧の発生は、九州に接近した低気圧の速度が遅くなった場合に、九州の山脈で二つに割れて発生
するケースが多い。発生の予測法は、日本海の西に深い気圧の谷があり、台湾や南西諸島付近に低気圧や
不連続線がある場合に発生する確率が多い。二つ玉低気圧が通過した後は、強い冬型気圧配置となるため、
中部山岳、上信越、北日本の山岳では引き続き長い期間大荒れの天気が続く。
(3)擬似晴天
風雪中の束の間の晴天を擬似晴天と呼びます。日本海の冬型の気圧配置が緩んだ後、そこに弱い低気圧が
発生した場合、この低気圧が日本の東海上に出て更に発達し強い冬型気圧配置をもたらすことにより起こります。
この低気圧が発生して発達し、再び冬型配置をもたらすまでの僅かな時間に現れる晴天が擬似晴天と呼ばれる
もので、晴天は数十分から長くても数時間しかもちません。
1963年正月に起きた愛知大学パーティーの薬師岳遭難事故は、二つ玉低気圧が丁度日本付近を通過中の
擬似晴天下で起きた事故でした。
(4)高層天気図について
冬型気圧配置になっているか、或いはこれが緩んできたかを知るには、高層天気図が有効である。(通常の
天気 図は「地上天気図」であるから、山岳の天気を表している訳ではない。山岳の気象予測は高層天気図が
必須)。なぜなら、日本付近上空の上層偏西風の波動は南下と北上をサインカーブのように繰り返しており、
冬季にはこれ が一層顕著となる。上層偏西風が南寄りの風の場合は、日本付近は上層の気圧の谷の前面に
入り気温も上昇して、冬型気圧配置が弱まる。このため、日本海側では季節風が弱まり風雪も収まって、一時
的な好天となり、太平洋側では悪天となる。
逆に、上層偏西風が北寄りの場合には、上層の気圧の谷が通過し、日本付近はこの後面に入って温度が
下降、冬型気圧配置となって日本海側は風雪となり、太平洋側は冬晴れとなる。このような理由から高層天気
図が山岳の気象予測に有効なのであるが、一般的には高層天気図を見る機会は少ない(※1)。よって、高層
の気温 の変化をチェックすることだけでも、冬型気圧配置か否かを知ることができる。即ち、富士山頂の気温を
チェックする(※2)。
〔富士山頂の気温上昇傾向〕=上層の気圧の谷の接近⇒冬型気圧配置が緩む
〔富士山頂の気温下降気味〕=谷の通過⇒冬型気圧配置に戻る
このようなチェックをして、山行前1週間ほどの間、縦軸に富士山頂気温、横軸に時間をプロットしておけば、
先々の予測も可能になる(偏西風の波動には一定の周期性があるから)。
【注】 ※1 高層天気図は、例えば国際気象海洋(株)のHPで気象庁発表のものが閲覧できる。
※2 富士山頂の気温 NHKラジオ第2放送の「気象通報」(9:10〜30、16:00〜20、
22:00〜 20)、または気象庁HPの『気象統計情報』⇒「過去の気象データ検索」で得られ
る。「最新の気象データ」⇒「今日の全国データ一覧表」では冨士山頂のデータはブランクに
なっているのでご注意(冨士山頂測候所は2008年9月末で正式に廃止される)。
(5)地上天気図の等圧線の間隔からの予測方法
等圧線の幅が狭まってくれば冬型気圧配置が強まっている証拠。逆に間隔が緩んでくると冬型も緩む。
※この稿は「シリウス・ジャーナル」掲載のワンポイントに加筆したものです