<劒岳・八ツ峰6峰Bフェース・京大ルートを登るクライマー(右稜線)、筆者撮影>
このテキストは岩登りの『初級〜中級編』テキストです。登り方や用具の基礎知識は『入門編』テキストに
書きましたので本稿では割愛しました。基礎知識については別稿『入門編』テキストを、またロープ結束に
ついては おなじく別稿の『ロープ結束法』をご参照下さい。
個人的使用の場合のコピーはご自由にどうぞ。その他の場合の無断転載などはご遠慮下さい。
©Tadahiko OHTSUKA 2005
When you follow any of the procedures described here,you assume responsibility
for your own safety.
(1)アルパインでの考え方 |
(2)リスクと安全確保、技術のバリエーションについて |
| (1)クライミング・ロープ |
| (2)カラビナ |
| (3)スリング |
| (4)確保器と下降器 |
| (5)その他の用具 |
| 3.確保の要点 |
| (1)ダブルロープでのアンザイレン |
| (2)ビレーヤーのセルフビレーのセット方法 |
| 4.リード |
| (1)登攀ラインの確認 |
| (2)ランニングビレー(プロテクション) |
| (3)支点へのクリッピング |
| (4)支点について |
| (5)そのピッチが終了したら (次のピッチへの準備) |
| 5.懸垂下降について |
| (1)ロープ2本の結束法 |
| (2)下降器無しの場合のロープ操作 |
| (3)シングルロープでの下降法 |
| (4)懸垂下降中の仮固定 |
| (5)懸垂下降の中止(登り返し) |
| (6)先に降りた人は |
| 6.クライマーの脱出法 |
| 7.ビレーヤーの脱出法 |
| 8.岩場の呼称 |
| 9.岩場のグレーディング |
| 10.参考文献 |
岩登り(ロッククライミング)とは、多種多様な要素を含む登山の一形態である。従来はアルパインクライミング
(※)が殆どであったが、近年ではスポーツクライミングやインドアクライミングなどもポピュラーになっている。
このような風潮に呼応して、使われる技術や用具(ギア)も多様なものとなってきた。しかし、ここでは岩登りを
「登山」という全体的営為の「一環」として捉え、スポーツクライミングなどの、それ自体で閉じた営為や技術とし
ては捉えない。従って以下に記述する内容はアルパインを前提にしたものでありスポーツクライミングなどの技
術についてはそれぞれの専門書を参照して頂きたい。(これらを否定する訳でもないし、そこで開発されてきた
技術や用具を大いに取り入れるべきことは論を待たないが、筆者の旧弊なスタンスでは、登山というものを一つ
の「文化」として捉える場合には、これらはその外側に存在していると考えるからである。
極端な例かもしれないが、ゲレンデやインドアでは靴はフラットソールに代表されるクライミングシューズを履
いて登る。フラットソールは確に他の靴では登れないような壁でも比較的簡単に登れてしまう。 しかし、同じク
ライミングにしても、沢登りでの滝や雪山でのミックス壁をクライミングシューズ で登ることはできない。登山の
フィールドには森あり、緑の草原あり、稜線あり、岩壁あり、沢あり、 雪山あり、氷壁ありというような多様な要
素が環を構成し、環境(気象など)も多様に変化する。登山 という営為はこれらを循環する行為であるというのが
筆者のスタンスである。また別の観点から見れ ば、用具や人工壁や技術はいくらでも進歩するが、山を取り巻
く自然環境は昔のままである。また、ゲレンデやボードは謂わば箱庭であるが、アルパインでは長くて困難なア
プローチを必要とする。 また、アルパインでは重いザックを背負って登らねばならないこと、高度感による恐怖が
大きいことなどから、ゲレンデと同じグレードでも、その困難さ(従って興味深さ)は倍加するといってよい。
(※)高山でのクライミングを指す。岩だけでなくミックスや氷雪登攀も含む概念。ヨーロッパで発達。
山登りは危険な場所に身を置く行為であるから、そのリスクを100%ゼロにすることはできない。特に岩登りで
の事故は重大な事故に繋がる確率が高い。確保や懸垂下降での失敗、支点の崩壊などは直接死亡事故に
繋がるので、非常にリスキーな行為であると言える。しかし、リスクを下げるに越したことはない。最も危険なこ
とは「危険」を察知していないことである。これは無知や経験不足からくることも多いが、なまじっかな経験が適
正な判断を曇らせたり、危険予知を鈍らせることも多い。アップグレードのために必要とされる技術は、単に机上
での空論や過去の遺物(過去の自分の自信や遺産)ではどうにもならない。 所謂KKD(ひとりよがりの経験、勘、
度胸)だけに頼っているとすれば、ステップダウンするしかない。常に新しい知識を実践の場で検証しながら、
「生きた」、「自分の」技術に磨き上げていくことが不可欠である。知識と経験は車の両輪である。経験が新しい
知識を求め、新しい知識が経験を深める。
岩登りの技術には、同じ目的のためでも、方法は種々あり、またそのやり方も各人によって千差万別であろ
う。基本だけをキチンと習得したら、応用編は自分に一番合った(一番やり易い)方法を確立することも重要であ
る。そのためには、新しい技術を書物などで積極的に学び、それを納得いくまで何回も試行錯誤し、また他人
のやり方を「謙虚に」かつ「批判的に」吸収することが効果的であろう。 クライミングの技術書などに書かれてい
る技術は、往々にして画一的な(唯一この方法でなければ ならない云々・・)場合が多いが、使うべき技術はク
ライマーの技量や登っている壁の状態によって多様なバリエーションがあるし、また安全性の確度を上げるため
には幾つかの同種技術の中からその時の 状況に応じた最適な選択をしなければならないと考える。
上記技術書の事情は著者の無責任というよりも、紙幅などの関係や読者の混乱を避けるために記述が単純
化されていると考えるべきであろう。例えば、よく引き合いに出されるが、プロテクションをセットする場合の正し
いクリップ・逆クリップの問題がある。ロープの方向(orカラビナのゲートの向きの2要素)だけで、常にクリップは
これこれであるべきと書かれている場合も多いが、それはあくまで基本的な一般論であって、登る方向、墜落し
た時振られる方向、プロテクション付近の岩場の形状、前後のプロテクションとの位置関係などによって、何れ
が正しいクリップか、何れが間違ったクリップかは一律ではない。一見正しいクリップが外れたり、所謂逆クリッ
プの方が外れない場合もでてくる。(インドアなどでは、このようなバリエーションを必要とする場合は少ない。上
で触れた“「登山文化」の外側云々”とは、具体的にはこのようなことを指している。インドアでは雪が降ることも
風雨が襲うこともないし、ロープが岩で摩擦することもない。また、クリップしたカラビナのゲートにロープが乗っ
てプロテクションからロープが外れるケースも比較的少ないが、アルパインではクライミングの環境は多様に変
化するのである。
更に忘れてならないことは、種々ある同様な方法の中で何故今回はこの方法をとらなければならないのか、
何故他の方法では駄目なのかを考えることである。くどいようであるが一般の技術書では、同種の技術のバリ
エーションを比較解説した上で、従ってこれこれにすべきと解説しているものは少ないように思われる。登って
いる岩場の環境や自分自身の状態によっては、「最善唯一」とされる方法が最善ではなく、「次善の方法」の
方が今はとるべき最善である場合もあろうし、状況によっては「最善」の方法をとれない場合もあろう。このため
に同じ目的の技術を何種類か習得しておき、その中からその場合に一番適切な方法が選択できる(選択肢が
ある)ことが大事になってくる。 例えば、確保や懸垂下降の場合には確保器や下降器を必ず使うべしと書かれ
ている。それはそのとうりであるが、万が一、下降器を落とした場合に下降器でしか懸垂下降の方法を知らな
かったとしたら、一生テラスから降りれない(!?)羽目になる。また、ダブルにした懸垂ロープが下まで届かなか
ったらどうすべきか? シングルで懸垂できる方法を知っていれば降りられるのである。また、「安全第一」だか
らといって、必要以上の過度な安全対策をする必要はないし、逆に拙速を優先しなければならない場合も起
こる。例えば、ブーリンノットで充分な場合に態々時間が掛かる8ノット通し結びにする必要は無い。 “安全係
数”を幾らにするかは己の技術レベルとその場の状況による。経験が物を言う訳である。一方で、同じ目的で
同じ用具を使っても、誤用したために事故に遭ったケースも多い。項末の文献はこのような意味で貴重な参考
書となろう。特に「生と死の分岐点」、「続・生と死の分岐点」は一般的に信じられている常識やちょっとした錯
誤が如何に危険な結果を産むかを例を挙げて詳述している。
■技術書で学ぶことは重要であるが、「知識」だけを山と積み込んでも役には立たない。「知識」は実際の現場
で試行錯誤してみて初めて「知恵」となる。技術書に書いてあることを「批判的に」受容してみることも大切で
ある。何故この方法でなければならないのか? 他にもっと良い方法は無いのか? こうした方が良いのでは
ないか?etc.,etc.
■「技術」はその殆どが「常識」から生み出されたものであり、従って「常識」にかなっていれば、「唯一この方法
でないといけない」ということはない。即ち、常識的な判断基準で使える技術を選択すれば良い訳である。技
術書に書いてあるとおりの方法に拘泥しなければならないという訳ではない。その場その場で「必要にして充
分な」技術であれば、それで十分である。また、安全確保の重要性は言うまでもないが、過度の安全対策は
「過ぎたるは及ばざるが如し」にもなる。簡単な結束でも充分な場合に、ややこしい結束をする必要はないし、
逆に混乱して間違った危険な結束になったりする。また、強度的にφ5ミリで十分な場合にφ8ミリのシュリン
ゲを使う必要はない。
■以上のような意味で、「現場感覚」が大変重要な要素になってくる。その場その場の状況に応じて、採用すべ
き「必要にして充分な」技術は書物の「知識」からではなく、現場感覚から得られる。場数がモノを言う訳である。
では、どのようにすればこのような知識と経験が身につくのであろうか。以下の3点を掲げたい。
(1) 岩登りに限らず、登山という営為について日頃から思索を巡らせておく。これは技術を勉強することだけに留
まらない。登山一般に対する思索は「技術」のバックグラウンドを拡げることにも役立つ。アルパインはロング・ピッチ
であり、壁が登れるだけでなく山全体を観る目が重要になる。
(2) 技術については、技術書を繙くことも重要であるが、事故例(報告書)を読んで分析したり、事故(回避)シミュレ
ーションを自分なりに試行してみることが効果的であり、このことにより「安全確保」に対する思考の裾野を拡
げることができると言えよう。
(3) 現場での勉強は、各種講習会に参加するのが早道である。また、冒頭でも述べたが、実際の山行 や練習で
経験を積み、読んだり聞いたりした「一般的知識」を自分自身で実際に検証してみて、 これらを自分自身に
合った「生きた技術」に磨き上げることが上達への最大かつ唯一の方策でも あろう。「現場経験」というスタン
ス(現場感覚)が必須であるということは岩登りに限らない。
話題は変るが、万が一の事故に対してのセルフレスキューの技術習得も大変重要な事柄である。セ ルフレス
キューとは、自分(達のパーティー)を自分(達のパーティー)だけで取り敢えず救助すること(専門家に渡すまでの
緊急処置)であるが、これは他のパーティーの救助応援にも役立つ。
最後に、「リスクを減少させるために、最大限の努力と細心の注意を払わなければならない」ということは言う迄
もないが、一方で「どんなに努力し注意していても、登山という行為には常にリスクが付随する」ということも冷静
に認識しておく必要がある。また、人間という生物は、いつかはどこかでミスを起こす可能性を否定できない。
不注意での事故も多いが、「最大限の技術や知識や体力を磨き、細心の注意を払って計画・実行したとしても、
なお回避できない遭難事故は起こる。それは、登山というものが持つ本質であり宿命でもある」ということを付記
してこの項の結びとしたい。
この初〜中級編テキストでは、用具に対する一般的な初歩的知識はあるという前提で、入門編では触れなかった
点や特に注意しておくことなどを述べる。
ロープ自体の強度は以下のとおり十分にあり、人間1人が墜落した程度では切れることはないので、このこと
自体に神経質になる必要は無い。しかし、問題はロープが正しく使用されているかどうかである。ロープ同士の
強い摩擦や岩角との摩擦があれば容易に溶融切断するので注意が必要である。また、劣化(墜落やなめし荷重、
汚れ、経年変化など)すると伸縮性が失われて衝撃吸収力がなくなり容易に破断する(ナイロンロープは伸縮する
ことにより衝撃を吸収する構造になっている)。ロープの長さは50mが使い易い。
◎ φ10mm〜 静的荷重換算7,000kg〜
◎ φ8〜9mm 々 5,000kg〜
φ8mm以上でUIAA(国際山岳連盟)基準をクリアしたものをクライミングロープと言い、これ以下の径のものは
(補助)ロープという。登山用具店で販売されている純正品はすべてこの基準を満たしている。余談であるが、
昔はザイルと呼ばれていた。ロープに限らず登山用語は旧来のドイツ語表示から英語やフランス語表示に変
化してきている。
使用基準は概ね以下のとおり。
◎ φ10mm程度以上・・・シングルで使用可(末端にシングル仕様を示す@表示があるもの)
◎ φ9mm程度・・ダブル(2本を別々に)で使用(ダブル仕様を示す1/2の表示があるもの)。同じメーカーの
同仕様の色違いが便利。
◎ φ8mm程度・・・・・ツインで使用(ツイン仕様を示す∞の表示があるもの)。 2本束ねて使用。
◎ロープは岩角との強い摩擦には弱い。岩角が鋭角である必要は無い。ちょっとした岩の凸部でも強い摩擦
(例えばトップの墜落、セカンドの強い滑落)が働けば容易に切断される。
◎本来の衝撃荷重だけでなく、なめし荷重(トップロープや懸垂など。ローラーをかけたような荷重)でも収縮力
が失われて衝撃吸収力が無くなる。
◎カラビナとの摩擦による磨耗も無視できない。カラビナの内側断面に凹凸があるものは避けた方がよい。
またカラビナの傷(大抵はボルトやハーケンとの摩擦でできる)もロープを磨耗させる。従って、クイックドロー
セット(所謂ヌンチャク)はボルト側のカラビナとロープ側のカラビナを使い分けること。
◎大きな墜落を数回やったり、製造から5年以上経たものは収縮力が無くなっているから破棄すること。この事
情はハーネスやシュリンゲも同様。
◎ ロープ同士の強い摩擦はロープを溶融切断する。トップロープをシュリンゲに掛けてはいけない(落ちれば必
ず切れる!!)。またダブルロープの交差、隣のパーティーとのロープの交差などは非常に危険である。
◎ 泥汚れ、酸、紫外線に弱い。また、カラビナとの摩擦による金属粉もロープを劣化させる。汚れたロープは水
洗いして陰干しにする。ロープの携行は専用のロープバッグに入れる。
◎ ロープは原則として当事者の物を使用すること。他人から借りたロープはそれまでの使用状況(墜落など)が
分からないから、どこに危険が潜んでいるかが分からないし、安全かどうかも分からないからである。同様な
理由から自分のロープを第三者に貸してはならない。
◎ ロープの消耗を常にチェックしておくこと。目視もそうであるが、ロープを巻く時の掌の感触で芯(コア)に異常
がないかどうか(固くなっていないか、曲がっていないか、伸びていないか、一部が蛙を呑んだ蛇状になって
いないか)をチェックするする習慣をつけておく。
カラビナの種類には種々のタイプと形状があることは入門編で述べた。ここでは若干の使用上の注意を述べる。
◎ベントゲートはスポーツクライミング用に開発されたもので、クリップが容易にできる。逆 に言えば、アンクリッ
プ(外れること)も容易であるということ。ゲート部分が内側に湾曲して いるので、クライマーが墜落すると、クリ
ップした筈のロープのクライマー側ロープがゲート を叩いて押し下げ、クリップが脱落するのである(図―1)。
またインクノットなどが不完全になりやすい。
<図ー1 ベントゲートはクリップが外れ易い> <図ー2 同じくインクノットが不完全になり易い>
◎ウィップ・フラッシュ(振られたカラビナが岩などに当たってゲートが反動で開く現象)を防止するために開発された
ワイヤーゲートは、軽くて扱い易いが、その反面、軽いためにカラビナがスリングの中で反転してアゴがスリング
に引っかかり、この状態で滑落すればロープがゲートを押 し開いて外れてしまうという危険性を内蔵している。
これを防止するためには、スリングとカラビナをゴムなどで固定しておくこと(ヌンチャクでの カラビナの固定と同
様に)。また、同じく軽量という理由から、ワイヤゲートはハンガーなどに乗りやすく破壊される危険性もある。
◎ タイブロックやロープマンを噛ませる場合には肉圧が薄いものや断面形状が矩形の物、D型、変形D型などは
利きにくい。この場合は断面が 円型のオーバ ルが適している。
◎確保器に連結するカラビナは、肉厚の太いHMS型などでないと構造的に弱かったり、ロープが痛んだりする。
(カラビナの 種類を図―3に示す)
◎上でも述べたが、ロープを通すカラビナは内側断面に凹凸が無いものの方が良い。
カラビナはゲートが閉じた状態での縦方向の強度は静荷重換算で約2,500kgくらいはある。 (カラビナ本体に25
KN等と刻印されている。図―4)。しかしゲートが開くとこれが600kg程度に激減する。またカラビナの横方向も これ
と同程度の強度しかない。静荷重換算で600kgと言えば、ほんの僅かな滑落でもこの値をすぐオーバーする程度
のものでしかない。従って、確保器や下降器とハーネスとの連結、アンカー、セルフビレー、その他カラビナのゲー
トが開いたら重大な結果になる場合には、必ず安全環付きカラビナを使用すること。安全環には2種類(オートロッ
ク式、ネジ手回し式)があり、オートロック式の方が操作上はフェイルセーフであるが、ロック機構がややこしかった
り、廻しにくかったりするし、手袋をした冬場には使いづらい。ネジ手回し式は廻して留める行為を忘れ易いが、
操作は簡単であり、廻すことを習慣づければ、この方が操作が早く、安全である。ただ注意すべきは、スクリュー
が「閉」の位置になったままであることに気付かずに、ゲートを閉じると非常に危険(図―5)。また、カラビナが横方
向に向く危険性ついては、以下の点を注意されたい。
◎短いシュリンゲ2本にカラビナをセットするとカラビナが横方向に向き易い(図―6)。
◎ヌンチャクのロープ側カラビナがクイックドローに固定されていない時(図―7)。これを防止するには緩み防止用
ゴムで締め付けたり(図―8)、専用のカラビナも市販されている。
(KN=力の単位キロ・ニュートン。1KN≒静荷重換算で約100Kg相当の力)
■シュリンゲにはロープ・シュリンゲとテープ・シュリンゲの2種類がある。強度、耐尖性ともテープの方が圧倒的
に優れているので、最近はテープの方が主流である。テープは自作したものは結び目が弱く、かつ解け易いので
初めから環状に縫ってあるソウン・テープをお奨めしたい。テープにしろロープにしろ結び目があると、結び目が無
いものと比べて強度は半分程度に落ちることにご注意下さい。また、最近では細くてしなやかで強度が強いダイ
ニーマ(スペクトラ)のソウン・テープが販売されています。同じ強度ならテープ巾の小さい物の方が扱い易いので、
ダイニーマもオススメですが、これは摩擦力が少ないこと、衝撃吸収力が無いことにご注意下さい。
以下にシュリンゲの作り方などを参考までに記述しておきますが、上記の理由からソウンテープの使用を強く推
奨します。
《強度比較(例)》
○テープ巾16mm(結び目無しで)・・・15KN(キロニュートン)、同(結ぶと)・・・7KN
○ソウンテープ巾16mm・・・22KN
○ダイニーマ巾 8mm・・ 22KN
○ロープφ6mm(結び目無しで)・・・8KN、同(結ぶと)・・・4KN
(1) スリングはロープかテープで作る。材質は従来のナイロン素材以外に最近ではケプラー、ダイニーマ(スペクト
ラ)などの軽量でしなやかで引っ張り強度 が高い素材もでてきているが、これらは衝撃吸収力が弱い(動的加
重に弱い)点に注意されたい。また、ダイニーマとナイロン素材のスリング同士の連結をしてはならない(ダイニ
ーマがナイ ロンを切断するから)。
(2) ロープスリングは、一般的に自作する。結束は必ずダブルフィッシャーマンとし、末端はロープ直径の10倍以
上出しておくこと。後述するテープ結び(リングベンド)は、ロープで行うと荷重がかかる度にスライドして解ける
ので絶対に行ってはならない。結んだ後は、全体重を掛けるなどして結び目をしっかり締め上げておくこと。
手で引っ張ったくらいでは全然締まっていない。また、使用する前に結び目が完全に締まって いるかどうかを
必ず確認する習慣をつけておくこと。以上は次項のテープの場合も同様である。 長さはシングルサイズ(出来
上がり40cm程度)とダブルサイズ(同80cm程度)が基本。直径は通常 6〜8mmが一般的であるが、大きな加
重が掛かる場合には7mm以上の径を奨める。 プルージック用には4〜5mm程度が良く利く。また、スリングを
解いて1本のロープにする必要がある場合も起こるので(懸垂下降時の捨て縄など)、直ぐに解ける結び方を
したものも持っておくと便利である(例。一方の端を束ね結びの8ノット、他端を これにシートベンド゙で結んで環
にしたものなど。ただし、この結び方をしたスリングは結び目の強度が弱いのでプロテクショなどには使用して
はならない)。
(3) テープスリングは、幅1〜3cmが一般的。出来上がり長さはロープと同様である。結び方はテープ結び(リング
ベント)にし、末端はテープ幅の2倍以上出すこと。テープ結びは強度が弱い(結び目が無い場合の5割程度の
強度しかない)こと、結び目が緩み易いことから、予めループ状に縫い上げてあるソウンスリングを買った方が
間違いが無いし強度も強い。特にダイニーマ(スペクトラ)は細くてしなやかで、非常に強度があるので、潰れた
ハーケン穴や細いボルト穴などに通すには適している(これらは摩擦係数が低いのでスベリが起き易く、絶対
に自分で結んではならない)。また、伸び率が小さく衝撃力の吸収が少ないので衝撃加重が予想される場合
には使用不可。 オムニスリングやデェージーチューンなどは環を5cmくらいの等間隔で縫い込んであり(ポケッ
ト)、長さの調節が容易にできるので便利。特にデェージーチェーンは一端をハーネスに連結し他端にカラ ビナ
を付けておけば一時的なセルフビレーをセットする時に重宝する(確保時のセルフビレーに使ってはいけない。
確保の際は必ずメインロープから)。
但し、デェージーチェーンのポケットの強度は弱いので、衝撃加重が掛かるような場合にはポケットを使っては
いけない。また、ピナクルでビレーをとる時などは長めのスリングを用意しておけば助かる(八ケ岳の冬壁など)。
(4)従来はロープスリングが主流であったが、近年はテープスリングの方が主流である。テープスリングは柔らか
くて耐尖性に富み、細い穴にも通せる。
(5)スリングの取り扱い方や磨耗、径年変化はロープの場合と同様。
(6)以下に各種ロープ結束の強度比較の目安を掲げておく。(結び目は弱い!!)
◎結び目無し・・・100%(として) ◎ダブルフィッシャーマン・・・60〜70%程度
◎エイトノット・・70%程度 ◎リングベンド・・・・・・・・60%程度
◎ブーリン・・・・50〜60%程度 ◎プルージック・・・・・・・・40%程度
確保器には種々のタイプがある。使われた年代が古い順にエイト環、ビレープレート(所謂ブタ鼻)、チューバ類
(ATC<通称バケツ>、ルベルソ等)など。特殊なものではセカンド・ビレー用のジジ、主にスポーツクライミングに
使われるグリグリなど。現在の主流はATCとルベルソ。ATCにも種々なタイプがあり、ロープの制動を調整できる
もの(ブラックタイアモンドATC・XPなど)やU字溝でロックが容易にできるものもある。ルベルソ(※1)はセカンドの確保
が容易(支点ビレーの時、手を離してもロックできる)であり、また下降器としても上昇器(アッセンダー)としても使
える万能選手である。
なおアッセンダーやストッパーとしては、ユマールやロープマンやタイブロック(※2)がある。ユマールは通常
のクライミングで使用する頻度は少ないが、タイブロックやロープマンはメインロープへの緊急固定、ミッテルの
登攀、宙吊りからの脱出など使用用途が多いので2ケ持参 しておくことを薦める(小さな器具であるから邪魔に
はならない。連結にはオーバル型カラビナを使用のこと。通常のカラビナでは利きが甘い)。
※1 《ルベルソ使用上の注意》・・・ペツルの取説では、ブレーキ面が丸いスペーサー側(即ち、確保側のロー
プを丸いスペーサー側から出せ)と記述されているが、使用しているロープによってはブレーキの効きが
甘くなる。このような場合には確保側ロープの出し方を取説とは逆に、ハウジングの底側から出すように
した方が良い。
この事情は以下の懸垂の場合も同様。
※2 《タイブロック使用上の注意》・・・取説では、カラビナは「腹掛け」と記述されているが、「背掛け」にした方
が安全性が高い。即ち、カラビナにロープが通っている方が、万が一タイブロックが破壊された場合にも
若干は安全性が残る。
下降器としてはルベルソとエイト環が代表選手である。ATCなどは高い摩擦熱を発生するし ロープに付着してい
る泥などがATCの縁を削って刃物のようになるので、極く短い緊急時の懸垂下降など以外では使用してはなら
ない。以上述べた如く、現段階ではルベルソが全てに共通して使えるスグレモノと言えるが、ATC等に比べて
スベリが良いので、確保器をATCから切り替える際には注意すること(上記※1を参照)。言う迄もないことである
が、確保器や下降器を連結するカラビナは安全環付きを使用のこと。
<図ー9 確保器、下降器、ストッパー、アッセンダー(ペツルのユマール)>
確保器の“ATC”(Air Traffic Controller)はブラックダイアモンドの商標ですが、なんでクライミングの道具に突然
航空管制用語が? 壁を舞うクライマーを飛行機に例えたのかも。ルベルソはペツルの商標ですが、
reverso(reverse)の意味からするとディッセンダーにも逆のアッセンダーにも使えるリバーシブルということからの
命名でしょうか。“ユマール”はアッセンダーの代名詞になっていますが、元来はスイス人クライマーのE.Jusiと
W.Martiとが考案したことから両者の名前を合成した商標(Jumar、ユマール)で、登高器一般は正しくはアッセンダ
ーの名称で呼ばれます。
主に救助用に使われるが、ザックなどを引き上げる時には便利であるから小型を持っておいた方が良い。
◎ ハーケンの種類・・ 材質は軟鉄、硬鉄、クロモリ、チタン。形状は縦型、横型、兼用型。
◎ ハーケンの打ち方・・まず、ハーケンを打つリスの付近をハンマーで叩いてみて、岩が硬いかどうかを確認す
る。グズグズの岩ならば濁った音がし、硬い岩なら高音の音がする。 リスの入っている方向によって、縦リス
には縦型ハーケン、横リスには横型ハーケンを打ち込む が、近傍の岩の形状によってはこの限りではない。
要はハーケンの穴にカラビナが入るかどうか、アゴがテコの支点となって引っ張られた時抜ける危険性が無
いかどうか、などをチェックして最適な位置に打つ。打ち方は最初の1/3くらいは軽く打ち、その後は力一杯
打ち込む(最初から全力で打ち込むと、ハーケンが飛んでしまうことが多い。これを防止するためにはハーケン
にスリングを結んでおくと良い)。打 ち込むに従ってキンキンという澄んだ音に変化すればハーケンは効いてい
る(所謂ハーケンが歌う)。グズグズとした低音では全く効いて いない。ハーケンがアゴまで入り切らない場合
には、ハーケンの穴にカラビナを掛けるのではなく、 ハーケンのブレードが壁に密着した位置に細いテープスリ
ングをタイオフして(クローブヒッチ、スリップノット、ガースヒッチなどで)、これにカラビナを掛ける(図―11)。
ハーケンの質が硬鉄(主に欧米製)の場合には、縦リスには横型ハーケンを、逆に横リスには縦型ハーケンを
使用する方が支持力が強い(図―12)。これはネジレ力によりハーケンとリスの間の摩擦力が増加するためで
ある。軟鉄(主に日本製)の場合は定かではない。用済みになったハーケンは抜いて残置しないのが原則であ
るが、抜くことによって更に岩にダメージを与える場合にはこの限りではない。
◎拡がろうとする4枚のカムと岩との間の摩擦力で支持力を得る構造になっている。クラック・クライミングの支点
として使用される。大から小まで、例えばブラックダイアモンドのキャメロットC4は有効巾195mmから14mm
まで10種類の大きさがある。カムの破断強度は大きさにより、5〜15KN程度である。
◎カム類のセットは平行または下が若干広がっているクラックにセットする。感覚的には、下がすぼまっているク
ラックの方が安全だという錯覚を持ち易いが、カムはちょっとした外力(ロープで引かれるなど)でカムが拡がっ
て自分で動いていく性質があるので、上が拡がっているクラックはカムがクラックから飛び出してしまうからであ
る。同様な理由からクラックの縁にセットすることも危険。
◎全てのカムが50〜90%閉じた状態で岩に接し、かつステムが予想加重方向に向くようにセットすること。カム
の大きさに対して極端に狭いクラックにネジ込むと回収が困難になる。
◎カムは岩を押し広げようとするから、クラックの岩が脆いと岩自体が破壊されるので、岩が頑丈であることをチェ
ックすることが重要。エクスパンディング・フレークはカムに加重が掛かって開くと館単に破壊されてしまうので、
このようなフレークにセットしてはならない。
◎カラビナは、カムに付いているステムのワイヤーループではなく、付属のテープシュリンゲの方に掛けた方が強
度が強い。
◎ナッツには厚さ5mm程度から30mm程度までの大きさがある。破断強度は2〜10KN程度で、カム類よりも
小さい。従って厚さが薄いもの(5〜7mm程度)はエイドクライミングのホールドとしてのみ使用し、プロテクショ
ンなどに使用してはいけない。
◎ナッツはカムと違って下(加重側)が狭まっているクラックでないと使用できない。
◎セッティングしたら加重を掛けて固定することを忘れないように。ロープなどで引かれるとセッッティングが外れ
易いので、ロープの方向が変る場所では必ずディレクション(別なナッツを反対向きにセットした支点)をセッテ
ィングすること。
<図ー10 ハーケン各部の名称> <図ー10’ ナチュラル・プロテクション>
クイックドローの長さはアルパインの場合は長めの方が使い易い。これはカラビナとスリングで自作することも可能
であるが、市販されているクイックドロースリングを使えば簡単で便利である。支点に掛ける側のカラビナはスリン
グが自由に動くように、逆にロープクリップ側のカラビナには緩み防止用のゴムなどを付けてカラビナが横方向に
向かないようにしておく(上述【2】(2)「カラビナの強度」参照)。しかし、逆にこれがアダになって図―13の状態に
なっていると、ロープがカラビナのゲート・キャッチ部(開閉部)によって切断される危険もある。
<図ー11 根元でタイオフ> <図ー12 硬鉄製の場合> <図ー13 キャッチ部で切断>
垂壁やオーバーハングを人工登攀で登る時に使用する。ちなみに人工登攀でのグレードはA0〜A3であるが、
このうちアブミを使用するグレードはA1〜A3である(A0は支点をホールドにして登るルートを表す。A3などのAは
AID CLIMBINGの頭文字)。アブミには、プレートアブミ、プレート付きテープアブミ、テープアブミがある。プレート
アブミはアブミプレートとスリングで容易に自作できるので、自分の身体に合わせて自作すると使い易い。
テープアブミよりプレートアブミの方が足の疲れは少ない。
所謂本チャンルートを登る場合には、通常ルートでも、カラビナ10〜15枚、ヌンチャク〜20本、スリング10本、
その他、確保器、下降器、ハンマー、ハーケンなどが必要になる。これらをどう携行するかによっては体力の
消耗に相当な差がでてくる。ハーネスのギアラックに全てをぶら下げる訳にはいかないし、ぶら下げたとして
もゴチャゴチャになって必要なものがすぐに取り出せないし、腰廻りが消耗して壁の途中で足が上がらなくな
ってしまう(所謂ボンボリスタイル)。このような場合に肩から吊るすギアラックを使えば疲れも少ないし、スッキ
リ取り出せる。ギアラックはテープなどで自作することも出来るが、市販のギアラックの方が圧迫痛が少ない。
片肩から掛けるタイプと両肩に掛けるタイプ(ショルダーハーネスタイプ)があり、後者の方が疲れが少ない。優先して
使うギアをこれに掛けておく。
半世紀程前迄の道具は素朴なものでした。例えば、ザイルは重くて伸びない麻ザイル、カラビナも鉄製の重
いものが一般的でした。シュリンゲやヌンチャクも無く、ザイルをカラビナに直掛けしていたと記憶しています。
ハーネスも無く、ザイルを腰にブーリンで巻くか、せいぜいゼルブストザイル。ビレーは腰絡みか肩絡み。
懸垂下降は足絡み法。ナイロンザイルの使用が始まって、前穂高岳でのナイロンザイル破断事故が発生し
たのが昭和31年(1956年)。破断か切断かで山岳界が騒然としました。この遭難に想を得たのが井上靖の
「氷壁」で、出版は昭和32年(1957年)のことでした。
確保について述べる前に、まずリーダー(註)とビレーヤーのアンザイレンについて触れておく。ダブルロープ
は同じメーカーの同じ仕様の同じ長さの同じ直径(9mm)のロープで、色違いのロープを使用するのがベスト
である。少なくても直径と長さだけは合わせておいた方が良い。何故ならば、2本のロープの直径や柔軟度
が違っていると操作がしにくいし、長さが違っている場合にはピッチを切った際に、長い方のロープを余分に
引かねばならない。また、ロープ残量をリーダーに告げる時、間違い易い。2本のロープの色は区別し易い
色にすること。
(註)ここで言う「リーダー」とは所謂「パーティーのリーダー」という意味ではなく、「リード」で登る人の意味
である。「フォロワー」に対する概念。(「ビレーヤー」と区別して「クライマー」とも呼ぶ)。トップ、セカンドとも
いう。行為自体は「リード」、「フォロー」と呼ぶ。
(1) 巻いてある2本のロープを解き、それぞれのロープの両方の末端が分かるように並べて、本体を束にし
て並べる。この時、クライマー側のロープが束の上側にくるようにしておかないと、スムーズにロープが出
ない。また束にする時にロープのキンクやこんがらがりを直しておくこと。
(2) お互いに右左の色を確認してアンザイレンするが、左右のロープが交差しないように(常に並行に出る
ように)注意する。2本のロープの束の位置もビレーヤーの確保器に入る側が交差しないような(並行に入
るような)位置に置くこと。
※ 以下で述べるロープ操作などについては原則としてダブルロープ(ドッペル・ザイル)を前提としている。
シングルロープで登る場合も勿論あるが(この場合は原則として直径が10mm以上のロープを使用のこと)、
本チャンの岩場ではダブルロープで登ることが多い。ちなみに、ダブルロープで登る理由は、安全性が増
すということ以外に以下のような理由による。
◎ 岩場の形状が複雑で(支点が左右に散らばっている)、シングルロープではロープ・ライン(プロテクション)
がジグザグになってロープが流れにくいし、落ちた時に振られる。また、ロープの屈曲が激しい場合には
墜落で支点が破壊されたりロープが破断される危険がある。(このような場合は、ロープがプロテクション
に引っかかってしまってロープが伸びず、恰も墜落係数が増大するのと同様の効果を生む)。
◎ 墜落時ロープの1本が破断しても他の1本で滑落を停止できる。
◎ 3人のパーティーでは、同時に2人がセカンドとして登ることができる。(厳密に言えばこのような登り方を
する場合にはロープはシングル仕様2本を使うこと)
◎ 50mロープ一杯のピッチがある場合、懸垂下降をする羽目になった時にはロープ2本があれば懸垂も簡
単である(1本でも降りられる方法はあるが・・・(後述))
通例、第1ピッチ(シングルピッチでも)の始点は広いテラスやバンドである場合(つまり安全地帯)が多いので、
ビレーヤーのセルフビレーを忘れ易いが、必ずセルフビレーをセットすること(第2ピッチ以降も勿論同様)。従来、
そのような場所(第1ピッチ)では、第1プロテクションとビレーヤーを結んだ線上のビレーヤーの後方にセルフ
ビレーの支点を位置させるのが良いとされてきた。クライマーが墜落して確保ロープが引かれても、これだと
ビレーヤーはセルフビレーに固定されて、振られたり壁に衝突する危険を避けられるという理由からである。
なるほど、これはこの通りであるが、最近では、逆にピンと張られたこのセルフビレーがアダとなって、クライ
マーが墜落した場合最後のプロテクションに過大な衝撃を与える危険性があるということから、「浮き上がり確
保」が推奨されるようになってきた。即ち、ビレーヤーは確保ロープを素早くロックしたまま身体を浮き上がらせ
て衝撃を緩和させる方法である。この場合のセルフビレーの支点は壁側の身体(胸)より高い位置に求める
(第2ピッチ以降は大概自然にこのような位置になる)。よって、ここでは後者の方法によるセルフビレーのセッ
トアップについて述べることにする。
ビレーヤーのセルフビレーはビレーヤーのハーネスから出ているメインロープで作る。ハーネスなどに連結して
いるスリングなどで作っては いけない(この理由は後述)。ダブルロープの場合には2本ともセルフビレーをセット
した方がより安全。 支点へのメインロープの結束はクローブヒッチ(インクノット)で行い、セルフビレーの長さを調
節した後、しっかりと結び目を締めておくこと。バックアップとしてスリングで別の第3のセルフビレーをセットして
おけば尚可であるが、これは時間節約、メインの支点の信頼度などによって、セットするかしないかないかの判
断をすれば良い。
クライマー側に出ているメインロープがビレーヤー側に出ているロープを締め付ける側にきていることが望ましい
(逆の場合でも止まらないことは無いが・・)。ただ、途中にスリングを噛ましている場合にはスリングが適当に捩
れてくれるので、差程気にする必要はない(図―14)
セルフビレーの支点は2ケ所以上のしっかりした支点であること。支点の位置はリーダーの登攀ライン(墜落した
場合にビレーヤーが引かれるライン)の真下からとれればベストである。登攀ラインから外れていたり、確保ロー
プやセルフイレーのロープが斜めに出るような位置では、リーダーが墜落すればビレーヤーは大きく振られて
壁に叩きつけられたりするので、できるだけ避けること(そこにしか支点がとれない場合にはそうするしかない
が・・・)(図―15参照)。
要は、クライマー側に伸びているロープ(正確に言えば#1プロテクションまたはディレクション<後述>)とビレー
ヤーを結んだ前方直線上に支点があればOK。支点2ケ所とビレーヤーがしっかりした三角形を成しており、
クライマー墜落による張力がこの三角形に正対して固定されているようなシステムになっていれば良い訳であ
る。(三角形は二等辺三角形が望ましいが、支点がそのようにとれるかどうかは分からない。三角形が極端な
不等辺三角形になっている場合、または引かれた場合にビレーヤーの身体が左右どちらかに振られる可能性
がある場合には、2ツの支点間を流動分散で結ぶ(図―16)。但し、流動分散方式は片方の支点が破壊された
場合には、残った支点に掛かる衝撃荷重が大きい。このような危険性が予測される時は固定分散方式の方が
良い。ビレーヤー自身も登攀ライン(#1プロテクション))の真下に位置するのがベスト。
(図―14) (図―15 セルフビレーシステムの平面図)
セルフビレーの支点は、できるだけビレーヤーの近く(手が届く範囲)にあることが望ましい。何故ならば、クライマ
ーが墜落して確保ロープが引かれた場合、セルフビレーも一杯に引かれる。この時ビレーヤーが脱出するために
は、メインロープへのテンションを掛け替えたり支でのセルフビレー結束を解いたりする必要が出てくるが(ビレー
ヤーの脱出方法については後述)、支点に手が届かなければこのような操作ができないからである。遠い場所に
しか支点がとれない場合には、支点からスリングを延ばし、その先端の手が届く位置にカラビナをセットし、ここか
らセルフビレーをセットすること。
確保はATC又はルベルソなどを用いたボディービレー(※) で行う。支点ビレーはリーダー(トップ)の確保には使っ
てはならない。理由は以下。
◎:トップ墜落時の衝撃力はかなり大きく、支点が破壊される恐れがある。支点が破壊されたら確保システム全
体が破壊されたのと同じことになる。ボディービレーなら、ビレーヤーの身体が飛ばされても、確保システム自
体は残存している。
◎トップが墜落したら、確保器が飛ばされて手元から離れてしまう(図―17)。
※「ボディービレー」とは?
確保器が使われる以前には、腰絡み、肩絡みなどのビレー方法が行われ、これをボディー・ビレーと称して
いた。確保器が使われだしてから は、「ボディービレー」とはハーネスに連結した確保器を使うビレー方法
を指す。これに対して支点に直接確保器を連結して行うビレーを「支点 ビレー」という。トップがフォロワー
をルベルソで確保する場合などで使用される。
<図ー16 流動分散> <図ー17 トップの確保には支点ビレーは不可>
登る前に、岩場の状態や支点がとれる位置をよく観察し、登攀ラインを予め決めておくこと。 また、ピッチを切る
テラスや支点の位置なども決めておく(下から見えない場合も多いが・・)。壁の裏側に回り込んだりするとコール
も聞こえなくなるから、予め笛やロープの引き方による合図 を決めておくと混乱しない。(二人の息が合ってくれ
ば、ロープの動き方で相手の行動が分かってくるようになる)。
(1) 登り始めにはできるだけこまめにプロテクションをセットする。最初のプロテクションも早めにセットすること。
これはロープがさ程延びていない段階で墜落すれば、墜落係数の理屈に従ってショックが大きくなる(ロープ
の衝撃吸収力が未だ小さい)からである。墜落係数は以下のとおり。
≪墜落係数≫
システムに懸かる墜落の衝撃荷重は、墜落距離(=ランナウトしたロープの長さ×2倍)の大小だけによるのでは
なく、墜落距離とそれまでに繰り出されたロープの長さの比によって決まる。これは衝撃をロープの伸縮が吸収
する度合が異なることによる。墜落係数=墜落距離/ロープが繰り出された長さ 。同じ墜落距離でも、繰り出さ
れたロープが長いほど衝撃が吸収される率が高くなる。逆に短い墜落距離でも繰り出されたロープが短い場合
(登り始めの墜落など)は衝撃は吸収されない。理論上、墜落係数の最大値は2である(図―18左)。同じ距離
10mを墜落した場合でも、ロープが20mしか繰り出されていない場合(中)と40m繰り出された場合(右) とで
は墜落係数は2倍の差が生じる訳である。当然のことながら墜落係数が大きいほど支点などに懸かる衝撃荷
重は大きい。

(図―18 墜落係数)
(2) ランニングビレーは左側の支点には左側のロープを、右側の支点には右側のロープをクリップし、2本のロープ
が交差しないように(並行に)クリップしてゆく。交差していると、墜落した場合に一方のロープが他方のロープを
摩擦してロープが溶融切断される危険性がある。交差する原因は図―19のように、例えば、右側ロープの上側
から左側ロープをクリップする場合が殆どである(ついつい何気なしにやり易いから注意を要する)。左側ロープを
右側ロープの下側を通してクリップすればよい。掛け違えた場合には、ズボラをせずにすぐ直しておかないと、
上に行ってから苦労することになる。
(3) ランニングビレーはなるべく鉛直方向に延ばしてゆくこと。斜めになっていると、落ちた時振られる 。
(1)支点がラインから離れ過ぎている場合には長いスリングを使うか、ヌンチャクをスリングなどで延長して、
なるべくラインが曲がらないようにするとよい(これはシングルロープの場合も同様。シングルの場合であるが
図―20に図示)。
( 2)同じ支点に2本のロープをクリップせざるを得ない場合には、同じカラビナに2本のロープを通すのではなく
(これは絶対やってはいけない)、別なカラビナをセットして通すロープを別々にすること(二つのロープの相互
摩擦溶融を回避するため。図―21)。
(3) 順クリップか逆クリップか?
一般的に、ランニングビレーをセットする時はクライマー側のロープがカラビナの裏側(壁側)から表側(クライマー
側、空側)に出るようにクリップする。これが逆になった場合を所謂逆クリップと呼ぶ(図―22)。逆クリップが危
険とされているのは、クライマーが登って行く方向にカラビナのゲートがあれば、墜落した場合にクライマー側
のロープがカラビナのゲートを叩いてクリップが外れる危険性があるからである(図―23)。また、ロープが壁に
押しつけられて流れにくいという こともある。この危険性はベントゲートのカラビナの場合に顕著であるから、
前述したとおりアルパインではクリッピングにベントゲートを使ってはいけない。しかし、冒頭でも触れたが、
いずれが正しいクリップでいずれが逆クリップかを一律に定義することはできない。これは登る方向とカラビナ
のゲートの向き、墜落した時に振られる方向、プロテクション付近の岩場の形状などにより一律には定義でき
ないからである。要は、墜落した時のクライマー側のロープがカラビナのゲートを叩かない(ゲートに乗らない)
ような方向と側にクリップすれば良い訳である。また、墜落してヌンチャクが振られた時にカラビナが岩に当る
場合には、慣性力でゲートが開かないようにゲートをラインと逆方向にセットしなければなら ないこともある。
要は、一律にセットするのではなく、その場その場の状況によって一番大きな危険を回避できるようにセット
すること。
(4)ゲートの向き
一見順クリップではあるが、リーダー側に延びるロープの方向がカラビナのゲート側に来ている場合には、上述
のとおり墜落した場合にはロープがゲートを押し開いてクリップが外れる虞がある。一見逆ではあるが、ゲート
の向きが反対の場合は安全(図―24)。
(5)ハーケンやボルトにカラビナを直掛けしてロープを通さざるを得ない場合で、カラビナの動きの自由度が少ない
場合にはカラビナをもう1枚噛ませて自由度を増加させる。
(6)カラビナがテコの原理でハーケンなどを抜く力が働くような場合には、スリングをかませてカラ ビナにこのような
力が掛からないように工夫すること(図―25)。
(7)カラビナのゲートが岩壁側に当たってゲートが開くことを防止するために、ハーケンやボルトにカラビナを上側か
ら掛ける場合は半回転させておくか、下側(壁側)から掛けること(図―26)。
<図ー19 ダブルロープの交差> <図ー20 シュリンゲで延長> <図ー21 ダブルロープは別々にクリップ>
<図ー22 順クリップ、逆クリップ> <図ー23 叩いて外れる> <図ー24 左:順だが危険、右:逆だが安全>
<図ー25 テコの原理> <図ー26 上から掛けたら半回転させる>
◎残置ハーケンやボルト・・・しっかり効いているかどうかを確認すること。目視やハンマーで叩いてみる。不安な
場合はハーケンなら叩き直すか 、新しいものを打ち直す。バックアップがとれればとるに越したことはない。
特に鉄製リングボルトは強度が弱く腐食も早いから注意
◎ ピナクル(岩角)・・・岩自体がしっかりしているかどうかのチェック。しっかりしている場合にはハーケンなどに比
べて支持力は強い。他にチョックストン、岩穴も利用できる。ピナクルなどを利用する場合は長めのスリング(ダ
ブルサイズ、トリプルサイズ)を持参すること。また結び方はピナクルの形状により異なる(図―28)。尖った三角
形のピナクルをクローブヒッチやガースヒッチなどで結ぶと、張力でスリングが上に競りあがってスッポ抜けるの
で大変危険(こような場合には被せただけの方が安全)。一般的に岩に掛ける場合にはロープスリングよりテー
プスリングの方が耐尖性に優れ、かつスベリにくく、強度も大きいので、テープを使った方がベター。
◎立木、ブッシュ・・・何れも生きている木を使うこと。枯れているものは大きな幹や根でも危険。結束はガースヒッ
チ(またはプルージック)が一般的であるが、結び目を加重の方向に向けて締め上げておくことが肝心である。
しかし、加重が掛かった結び目の強度は非常に弱くなるので、長いシュリンゲがある場合は図ー29の〔1〕の
ように括っておくのが最善である。加重方向が不変の場合には〔2〕の一重で良い。このような括りり方に対して
〔3〕のガースヒッチの強度は1/3程度しかないと言われており、更に〔4〕のような締め方をすると、更に半減す
ると言われている。
<図ー29 立ち木の支点>
リーダーがピッチ終了点まで到達したら、以下の作業を順番に行う。
(1) まず、セルフビレーをメインロープからセットし、自己確保の安全が確認されたら、ビレーヤーに対して「ビレー
解除」のコールを掛ける。隣のルートなどに他のパーティーがいて壁が輻輳している場合には他のパーティーと
の混線を避けるために、コールの頭に相手の名前を付加すること(「○○さん、ビレー解除!」)。
(2) セカンドを確保する準備を行う。セカンドの確保は、確実な支点が胸の上方にセットできれば、支点ビレーが
一番良い(この場合は確保器はルベルソを使用すること。ATCでは制動手が上がりにくくロックが困難)(図―
30)。また、上方の支点にディレクション(方向変換)をとって、折り返し(ワン・ターン)のボディービレーをすること
もできる (この場合にはATCも可)。下向きのボディービレーは姿勢が安定せず危険。
(3) ロープの束ね方・・・セカンド側からたぐり寄せるロープはセルフビレーロープの上に束ねて左右に振り分けに
すること。地面に置いたり、下に 垂らしたままにしておくと下に滑り落ちたり、ロープが混乱して危険。こんが
らがったロープは次のピッチで繰り出せなくなる。繰り出せないということは、トップが途中で立ち往生する結果
になることを意味し、また、ビレーヤー自身のセルフビレーも怪しくなっているということである。このような状態
ではトップが墜落しても確保することができないし、行き詰まったトップがクライムダウンすることもロワーダウン
することも不可能になる。従ってロープの束ね方はマルチピッチ・クライミングで最も重要なポイントと言っても過
言ではない。ロープの混乱は、リーダーがフォロワーを確保しつつ束ねたロープを、次のピッチでビレーヤーに
渡す時の(下記(5)の前半部分)収受状態がきれいになっていないことによる原因が大半であるから、ロープ
の受け渡しには特に留意願いたい。
私も何回かこのようなミスを起こしているが、こうなったら登るどころではなく、窮屈なセルフビレーにぶら下が
ってハーネスからメインロープのエイトノットを解除して、輻輳したロープの混乱を直し、再びハーネスに結び直
すことになる。時間と体力のロスだけでなく、非常に危険な作業になる。このような状況になると、慌てている
上に頭も混乱してきてロープ操作のミスが起こりやすい。間違ってセルフビレーを外したりすると大ごとになる
(墜落死)。このようなことを防止する上でも、セルフビレーのバックアップをセットしておきたい。以上、多少時
間が掛かってもロープの束ねと受け渡しは慎重にお願いしたい。
(4) セカンドのセルフビレーの仕方(セカンドが登り着いてセルフビレーをセットする時)・・・セカンドが次のピッチも
ビレーヤーをする場合には、メインロープからセルフビレーをセットしてトップ確保用の支点とする。逆にツルベ
(セカンドが次のトップとなる)の場合にはセカンドのセルフビレーは一時的なセルフビレー(スリングなどでの)で
可。登る順番を考えて、スリングやカラビナのセットは、先に出る人のものが上側にくるようにセットすること。
(5) 次のピッチに進む準備・・・(セカンドが登り着いてセルフビレーをセットした後に)
■前のピッチをリードした人が、次のピッチもリードする場合
トップは確保器を解除し、セカンドは回収してきたギアをリーダに渡す。この時、落としたりしないようにセカンド
はギアを整理して丁寧にリーダーに渡すこと。ギアを落とすということは、これから先のピッチのギアに不足を来
すということと同時に、下にいるかも知れない他のパーティーに危害を加えることにもなる。 リーダーはセルフビ
レーロープの上に束ねていたロープをひっくり返して(上下を逆にして)セカンドのセルフビレーロープの上に渡す
(スムーズにロープを出すため)。ロープがごちゃごちゃになっている場合には束ね直すこと。セカンドは確保器を
セットする(ボディービレーで)。
■前のピッチのセカンドが次のピッチをリードする場合
前のトップ(このピッチのビレーヤー)が束ねたロープはそのままで良い。前のトップは、支点ビレーを解除し、
ボディービレーにセットし直す。
(6) お互いのロープ連結が正しいかどうかを相互チェックした後、トップはセルフビレーを解除して登り始める。
(7) できるだけ早く第1番目のプロテクションをセットする(上述4.【2】―(1)の理由)。セットできない場合には、
ビレー点(一番上側の)を第1番目のプロテクションにするとよい。
(8) 以降のマルチピッチの操作は以上を繰り返すことになる。
(1) ロープ1本のダブルでは下までロープが届かない時には、ロープ2本を繋いで使用する。 2本をエイトノットで
連結(通し結びでも束ね結びでもよいが、束ね結びの方がロープを回収する時に流れがスムーズ。この場合
には末端を1m程度余らせておくこと(スッポ抜け防止))。ま たはダブルフィッシャーマンで結束する。2本のロ
ープの径が異なる場合にはエイトノットにする。他の両端はエイトノット(束ね結び)にして おく。
(2)2本を結束したら体重を掛けて結び目をしっかり締め上げておくことを忘れないように。
(3)2本のロープの結び目は壁側に作り、壁側のロープを引いて回収するとスムーズに回収できる。反対側(空側)
に作ると、回収側のロープが壁側のロープを押しつけて回収が重くなる。どちらのロープを引くかを忘れないた
めに、引く側のロープにカラビナを通しておく手もある。 (これは1本のロープをダブルにして懸垂する場合も同
様)。
(4)ロープの投げ方
ロープ2本を束ねると重さが5kg程度になり、片手で投げるには重過ぎる。この場合にはループを二つに分けて
上側のループを投げて、 下側のループはそれに引きずられて落とすようにすれば良い。ループを投げる方向
は下側にではなく、ロープダウンさせたい位置の鉛直線上方と直角な目線の交点の中空である。ロープを投
げる前に下に居る人に「ロープダウン」のコールを忘れないこと。
(5)落石をしないように
これは、登攀途中でのロープ操作にも共通することであるが、ロープを操作中にまたは投下中に誤って落石を
誘発することがあるので、岩屑や石をロープで引っかけないように注意すること。
通常は下降器にエイト環かルベルソを使うが、これらが無い場合にはハーフクローブヒッチ(イタリアンヒッチ、
ムンターヒッチ、半マスト結びとも呼ぶ)で下降する方法もある(図―31)。特にシングルロープで降りる場合には
便利であり、初めからこれを使う人も多い。但し、制動側のロープがカラビナのゲートの反対側にくるようにしなけ
ればならない(逆だと、流れるロープがゲートを開く危険性が多い。図―31)。また、カラビナ1枚さえ無い場合には、
下降器が登場する前に行われていた足絡み法がある。覚えておくと何かの時に役立つが、確保器を使う方法に
比べて危険度が非常に高いので、万が一の非常手段と考えること(図―32)。
<図ー31 ハーフクローブヒッチでの懸垂。右はゲートの向きが不可> <図ー32 足がらみでの懸垂>
ロープが1本しかなく、ダブルでは下に届かない場合には、シングルで下降する方法もある(図―33)。但し、下降
器とロープとの摩擦がダブルに比べて少ないので、制動側ロープを強く保持していなければならない(摩擦を増や
すためにエイト環なら二重に通したり、小さい穴の方に通したり、またハーネス(レッグループ)に別のカラビナを掛
けてワンターンする方法もある(図―34))。
回収の為に、スリングを繋いだりして下まで届く長さの別なスリングが必要である(当初から、かかる事態が予想さ
れる場合には細くても良いからロープと同じ長さのスリングを持参すれば良い。シングルロープ1本で登れるルート
の場合に、態々懸垂下降用のためだけに重いメインロープを2本持参する必要は無い)。

(図―33 シングルローフで゚の懸垂) <図ー34 エイト環2重通し、小さい穴に、ワンターンの方法>
懸垂下降中に何らかの理由で一時停止したり、停止して両手を使わねばならないような場合も起きる。この方法
には幾つかあるが、ここでは代表的な一例を図示する(図―35)。この方法の要諦は、
◎エイト環に指を入れて固定する時、必ず手袋をした指でしっかりと固定すること(懸垂下降は、初 めから手袋を
する習慣にしておくこと。長い懸垂下降ではロープとの摩擦熱で掌がヤケドする)。エイト環に指を入れると、
万が一指を骨折したりするする虞もあるので、カラビナとビレーループの箇所でロープを握る方法も行われている。
◎仮固定が予想される場合には、懸垂に入る前に予めワンターン用のカラビナをレッグループにセットしておく。
◎最後にエイト環の上で結ぶ時、ロープに緩みが無いようにしっかりとタイトに締めること。
◎解除する場合には結んだロープが緩まないように解除しないと、ズリ落ちるので注意。
この他に、懸垂ロープを足に絡ませる方法(図ー36)やエイト環にタイオフさせる方法もある(図ー37)。
<図ー36 足がらみによる仮固定> <図ー37 タイオフによる仮固定>
何らかの原因で下降を中止して登り返さねばならなくなるケースもある。方法は以下のとおり。
(1)仮固定して(上記)、プルージックをセットする。二つ目のプルージックはエイト環で代用しても可。
(2)仮固定を解除し、プルージック登攀で登り返す。方法は次項6―【3】「宙吊りからの脱出」参照。
先に降りた人は後続の人のために、ロープが途中で交差していないか、絡まっていないか、回収側のロープが
流れるかどうかなどをチェックし、また、万が一の後続者の失敗に備えて末端を保持すること(懸垂中の人が制
動手を離しても、下に居る人がロープにテンションを掛ければ止めることができる)。
クライマーが墜落した場合の脱出法を以下に述べるが、これは平素から訓練しておかないとイザという時に役に
立たない。またクライマーだけでなくビレーヤー側のロープ操作も重要であるから、お互いに熟知しておかなけれ
ばならない。元の位置に自分自身で登り返せる場合 (傾斜が緩い場合、他の易しい代替ルートで登れる場合な
ど) には、登り返す場合もある。
墜落距離が短い場合には上に登り返す方が良い場合もある。支点で折り返された(ハーネスと反対側の)ビレー
ヤー側のロープを引っ張って、支点のカラビナをツルベの滑車に見立てて登る。手で登るのではなく、足を高めに
壁に踏ん張って、ロープを引いた瞬間に腰を競り上げる要領で。この瞬間に、ビレーヤーはロープを強く引いてロ
ープの緩みをなくしてやることが肝腎。
ビレーヤーにロープを徐々に緩めてもらって下る方法である。繰り出されているロープが全長の1/2弱未満の場合
と、1/2弱以上の場合では方法が異なる(ロープ全長の内、結束部分に多少のロープを使用するので「弱」という表
現になる)。
ロワーダウンで降りる(プロテクションはそのまま)。墜落者が意識を喪失していてもビレーヤーだけで降ろせる。
そのまま降りるとロープ長が足らなくなるから「切り返し」で降りることになる。切り返しの方法は以下のとおり。
墜落者がロープ操作が可能なことが前提。
(ロープ操作ができない場合の救出法は項末参考文献(1)「最新アルパインクライミング」P.177参照)。
(a) ロワーダウンで次の(下の)プロテクションまで下降したら、ハーネスにガースヒッチでソウンスリングを結ぶ。
他端を支点のヌンチャクの上側のカラビナにマリナーノットで結ぶ。
(b)このスリングにテンションを移し、ロープを2mくらい緩めて貰って(ビレーヤーに)、ヌンチャクの下側のカラビ
ナに通っているメインロープにエイトノット(束ね結び)を作ってハーネスのビレーループに通したカラビナで結ぶ。
(c)次にビレーヤーに強くロープを引いておいて貰ってから、元々ハーネスにエイトノットで結束していたメインロー
プの結束を解除し、上側の支点に掛かっていたロープを引き抜く。
(d)引き抜いたメインロープの末端を再びハーネスにエイトノットで連結する。
(e)再びビレーヤーにメインロープを緩めて貰い、テンションを(a)のスリングに移し替える。
(f)(b)でハーネスのビレーループに連結したカラビナを外してエイトノットを解き、ビレーヤーに メインロープを引
っ張って貰って、スリングからメインロープにテンションを移し替える。
(g)(a)で結束したマリナーノットを解除し、ロワーダウンする。
(h)上記の作業をプロテクション毎に繰り返す。(図―38。本文と図解の説明文の項番が一致していないので、
ご注意下さい)。

<図ー38 墜落からの脱出法。出典:参考文献(3)「全図解クライミングテクニック」>
基本的にはプルージック登攀の要領と同様。プルージックは2本作る。プルージックを作るスリングは細くてしな
やかなロープスリングを用いる(メインロープの径の1/2以下の径でないと利きが悪い。メインロープの直径が9mm
なら直径が4mm以下のスリングがよい)。
(1) まず、一つ目のプルージックをセットする。プルージックは片手でセットできるように日頃から練習しておく
(結び目を掌の中で転がすようにロープに巻き付けると易くセットできる)。このプルージックにカラビナを通し
別のスリングに延長して足裏に掛ける。デェージーチェーンやオムニスリングなら長さが調節できるから便利で
ある。足はラークスベンドにして掛ける。
(2)上で作ったプルージックに乗って立ち込み、この上側にもう一つ、前のよりも短か目のプルージックを作って、
こちらはハーネスに連結する。どちらのプルージックの位置も、それぞれ手が届く範囲で一番高い位置に届く
ように長さを調節する(後者は、やや肱をまげて一杯くらいがよい)。
(3)この二つのプルージックに相互にテンションを移し替えながら登って行く。
(4)以上述べたプルージックの代りにタイブロックやロープマンを使用すると簡便であるが、タイブロックはテン
ションが抜けるとロープからズレ落ち易いので注意が必要。ロープマンならこの心配が無い。また噛ますカラ
ビナはオーバル型かHMS型を使用しないと利きが甘い。タイブロックに掛けるカラビナはめーかーの取説には
腹掛けと書いてあるが、背掛けの方が安全。
以上述べた方法は1/2弱未満のロワーダウンを除いて、実際には、事ほど左様に簡単にはいかない。意識は
あっても墜落時のケガなどでクライマー自身での作業ができない場合も多いし、ビレーヤーが壁に叩きつけられ
て作業が不可能になることもある。
余談であるが、 「墜落は避けるものではなく、むしろ常識的(積極的)に行うもの」という説もあるが、インドアや
ゲレンデでの安全が確保された場所での練習ならいざ知らず、私はこのような考え方には組みしない。インドア
やゲレンデでの極く短いピッチを除けば、墜落からの脱出は容易ではないし、墜落で事故を起こす場合も多い。
特にアルパイン・ルートでは尚更のことである。従って、「墜落しないように」することが最優先されるべきである。
墜落を防ぐには、ホールディングとムーブの練習、足腰の体力トレーニングしか方法は無い。くどいようであるが、
本チャンでは「絶対に」墜落してはならない。目標とするルートを墜落しないように登れるまで練習を重ねることが
アルパイン・クライミングを楽しむための最低必須条件であることを明記しておきたい。
クライマーが墜落した場合、ビレーヤーは墜落者の状況を確認するために動いたり、救助を求めるためなどのた
めに、ビレーシステムから脱出する必要も起こる。以下、脱出方法の一例を述べる(図―39)。
(1) ビレーヤーは両手を自由にするためや墜落者側 のメインロープを固定するために、まずビレーをロックする
必要がある。押さえ側(確保側)のロープをカラビナ(ゲート側は不可)に数回巻き付けてから巻結びし仮固定す
る。ビレーループに直接巻結びをして仮固定する方法もあるが、これはテンションが掛かった後は、解除する
時に解きにくい。
(2)次にプルージック(ロープマンやタイブロックの方が便利)を確保器の先のクライマー側のメインロープにセット
し、他端を支点に固定する
(3)メインロープを緩めて、徐々にこのプルージック(ロープマンやタイブロック)にテンションを移す。
(4)テンションを移し終わったら、ビレヤー側のメインロープにエイトノット(束ね結び)を作って、これを支点に連結、
確保器を外せば脱出完了
(5)プルージックを作るスリングが無い場合には、片手でクライマー側のメインロープをロックしたまま、もう一方
の手でビレー側のロープをクローブヒッチで支点に連結し、これにテンションを移し替え、確保器に付いている
カラビナを確保器ごとハーネスから外して脱出する方法もある。この場合、確保器及びカラビナはメインロープ
上に残ることになる。ビレー側のロープにクローブヒッチが作れるだけの余裕と、セルフビレーロープにもある
程度の余裕があることが必要。
(6)何れにしても、セルフビレーの支点(または支点からスリングを介して伸びているカラビナ)が手の届く範囲に
あることが肝腎。(上述3―【2】「ビレーヤーのセルフビレーのセット方法」参照)

<図ー39 ビレーヤーの脱出法。出典:参考文献(4)「アルパインクライミング)、本文の解説全てをカバーしてい
ないことに注意>。写真ではセルフビレーロープもクライマー側に伸びているロープも弛んでおり、作業も簡単なよ
うに見えるが、実際の墜落の際は、両方ともピンピンに張っていることに注意されたい(従って作業もそれほど容
易ではない)。
(1) クラック・・・岩の割れ目。人間が入れるよう大きなもの(チムニー)から、ハーケン程度しか入らないような細い
もの(リス)まである。指が入る程度のものをフィンガー・クラック、掌が縦に入るものをハンド・クラック、ゲンコツ
が入るものをフィスト・クラック、肩がやっと入る程度ものをオフウィドス、全身がやっと入るものをスクイズ・チム
ニー、中で足が突っ張れるような広いものをチムニーと呼ぶ。また。割れ目が薄く切れ込んで、剥がれそうに
なった形状のものをフレークと呼ぶ。クラックに沿って登ることをクラック・クライミグと言い、クラックを登るための
諸動作をジャミングと呼ぶ。
(2) フェース・・・傾斜のきつい平らな壁。
(3) スラブ・・・・フェースより傾斜が緩い壁。ツルツルの(ホールドに乏しい)場合が多い。
(4) テラス・・岩棚。1〜2人くらいしか立てない狭いものをレッジと呼ぶ。横に?がったものがバンド。
(5) ピナクル・・・岩の突起状のもの。
(6) オーバーハング・・垂直以上に傾斜した壁。庇状のものはルーフと呼ぶ。
(7) カンテ・・・ 大きな 凸状の岩角が縦方向に繋がったもの。小稜線。
(8) ディエードル・・・縦に繋がった凹角。コーナーとも呼ぶ。
(9)リッジ・・・(小)岩稜
(10)ルンゼ・・・岩溝
岩場の難易度を示した指標をグレードという。ガイドブックやルートマップなどに載っている。各ピ ッチ毎の難易度
をピッチ・グレードといい、マルチピッチなどルート全体の難易度をルート・グレードと呼ぶ。何れも数字が大きくなる
ほど難易度が高くなる。グレードの評価は評価者の主観的要素も多く、また、岩場の経年変化もあるので絶対的
指標とは言えない。同じグレードの岩場でも、高度感やピッチ数によっても体感的グレードは変わってくる。非常に
高度感がある岩場では、通常は登れるグレードでも恐怖の為に滑落する場合も多い。また、アプローチに時間を
要す岩場(高山の岩場)とそうでない岩場(ゲレンデなど)では体感的グレ-ドは異なってくる。また、フォローで登れ
るグレードでもリードでは登れない場合も多い。グレードは概略の目安として、余り拘泥しない方が良い。
(1) ピッチ・グレード
◎フリークライミングの場合はUIAA基準(T〜Y)、またはヨセミテ・デシマル(5.7〜5.12)が使われている。日本で
は両者が混淆して使われる場合が多い。
◎人工登攀の場合はA0〜A3(日本)で表される。“A”はAid climbingの略。A0はプロテクションをホールドにして登
る場合、A1以上はアブミなどを使用するルート。例えば、“5.8、A1”と記述されていればフリーの5.8及び人工登
攀のA1技術を使うという意味。
(2)ルート・グレード 1〜6級で表す。
≪グレードの例≫
◎アルパインクライミbグ入門ルートとしてポピュラーな前穂・北尾根(夏期):1級(ピッチ最高グレードV)
◎北岳バットレス第4尾根主稜(夏):3級(ピッチ最高グレードX、A0)
◎谷川岳一の倉沢衝立岩中央稜(夏期):3級上(ピッチ最高グレードX−)
◎劔岳・チンネ左稜線(夏):4級下(ピッチ最高グレードW、A1)
◎甲斐駒ケ岳赤石沢 ダイアモンドAフランケ 赤蜘蛛ルート(夏):5級下(W+、A1)
(1)「最新クライミング技術」菊池敏之著、東京新聞出版局、2002年5月初版
種々の技術や用具を比較検討しながら、その場その場に最適な方法が述べられている。写真も多く分かり易い。
幾つかの選択肢がある中で、何故ここではこの技術を使うのが良いのかという観点から選択理由を付して記述さ
れている。中級〜上級者にも向く。
(2) 「最新アルパインクライミング」菊池敏之著、東京新聞出版局、2006年6月初版
上記(1)の続編であるが、クライミングに対する考え方と技術上の論考が更に深められている。ビッグウォール
クライミングも追加されている。中〜上級者向き。
(3))「全図解 クライミングテクニック」堤 信夫著、山と渓谷社、2004年5月初版
図解が豊富で分かり易い。初心者にも向く。
(4)「アルパインクライミング」保科雅則著、山と渓谷社、1996年8月初版
実際の本ちゃんルートでのガイドやビッグウォール(ヨセミテ)のクライミングテクニックなども紹介されており、
また欄外のコラム(ワンポイント技術レッスン、クライミングの歴史など)も楽しい。
(5)「生と死の分岐点・・山の遭難に学ぶ安全と危険」P.シューベルト著、黒沢訳、山と渓谷社、2004年7月改訂
第2版)
冒頭でも述べたが、一般に常識とされてきた技術や用法、ちょっとした錯誤が如何に重大な事故に繋がった
かを例を挙げて詳述(登山一般とクライミング)。
(6)「続 生と死の分岐点」同上、2004年6月
(7)「パフォーマンス ロッククライミング」ディル・オダード他著、森尾直康訳、山と渓谷社、1999年4月初版
クライミングの精神的、肉体的両面でのトレーニング法の解説書。
(8)「高みへのステップ 登山と技術」文部省、1999年第7版、東洋館出版社
初版の出版が1985年であるために、内容が古くなっている部分があるが、ものの考え方が的確に述べられ
ており、技術の根幹を学ぶ上で得るところが多い。
(9)Steven M.Cox & Kris Fulsaas ed. “Mountaineering― The Freedom of the
Hills” 7th ed. Seattle:
Mountaineers Books,2003 .
1960年代から世界的に登山技術の標準教科書となっている古典的名著であるが、2003年に大幅改訂され、
最新の技術が網羅されている。何よりも安全を第一優先とするアメリカ的思想で貫かれているし、説明も理論
的であり、図解も多い。日本と使う用具や、やり方が違う面もあるが、日本で行われている技術とここに書かれ
ている技術を比較検討することは、用具や技術やクライミング環境の本質を掴む上で非常に参考なる。
邦訳本は無い。
(10)Mark Houston “Alpine Climbing:Technique to Take You Higher”2nd.printing,
Mountaineers Books,2005
上記(9)の内、アルパインクライミングの内容を中級者向きに深めたもの。岩、雪、氷、氷河が中心。邦訳無。
(11)Andy Tyson他“Climbing Self−Rescue:Imrovising Solutions for Serious Situations”,
1st.ed.Mountaineering Books,2006
ロッククライミング中の事故におけるセルフレスキュー技術が詳述されている。30種類の想定事故例に対し
ての対処法が質問形式で提示され、対処法、事故の隠れた要因、予防策などが示されていて、机上での
シミュレーション訓練には打ってつけであろう。鮮明な解説写真も多用されているので分かり易い。邦訳無。
(12)David J.Faslo“Self−Rescue”,Falcon Publishing,Inc.,1999
同じく岩場でのセルフレスキュー技術の解説書。解説図が写真ではなく図で示されているので、ロープの結束
などが分かり易い。邦訳無。
(13)「岩場のセルフレスキュー(レスキューリーダー養成講座テキスト)」都岳連遭難対策委員会編
以上